エネルギー・環境

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2014/07/10

【サントリー天然水の森シリーズ】第2章 水が存在し続けるメカニズム

進展するサントリーの地下水涵養地保全活動
〜『冬水田んぼ』の成果検証と『有機稲作』への進展〜

サントリーホールディングス株式会社
コーポレートコミュニケーション本部
エコ戦略部 水源涵養グループ
三枝 直樹 氏
1964年(昭和39年)神奈川県横浜市生まれ。
1990年 サントリー株式会社入社。部酒類営業 輸入食材担当、健康食品部門などを経てエコ戦略部の前身、環境部に配属。
2005年より現職。

山、川、田んぼが三位一体となった地下水保全

 熊本市の水道水となる地下水の涵養地であり、サントリー九州熊本工場が使用する地下水の涵養地でもある阿蘇外輪山の国有林において、サントリーは長年にわたって森林整備を続けている。その活動が「サントリー 天然水の森 阿蘇」である。
 サントリー九州熊本工場が使用する地下水の恒久的な保全はもちろんのこと、サントリーの森林整備を通じた地下水保全活動は、「水の都」の美しい景色や熊本地域(阿蘇外輪山西麓から熊本平野おびその周辺の台地に広がる地域)の水道水への貢献にもつながっている。
 さらに2010年11月より天然水の森 阿蘇の下流につながる熊本県益城町の水田において、「冬水田んぼ」による地下水涵養も実施している。熊本地域の歴史に刻まれている水田活用による地下水涵養という伝統的な取り組みに貢献しているのが、サントリーホールディングスの三枝氏だ。
 三枝氏は天然水の森プロジェクトをはじめとしたサントリーグループの環境活動を担うエコ戦略部で水源涵養のプロジェクトに携わっており、現在は阿蘇(熊本県)や赤城(群馬県)、奥大山(鳥取県)、丹沢(神奈川県)、ぎふ東白川(岐阜県)など7カ所の天然水の森プロジェクトを担当している。
 同氏がエコ戦略部の前身である環境部に配属される以前は、酒類の営業部門で活躍していた。2005年よりまったくの畑違いの事業に携わることとなった三枝氏だが、当初は地下水や森林の保全に関してまったくの未経験であり知識もなかった。しかし現在では林業のプロも認める知識を持つ頼もしい存在になっている。
 冬水田んぼの取組について三枝氏は「現在、冬水田んぼを実施している場所は山から川が流れてくる扇状地です。その川の上流では天然水の森プロジェクトで森林整備を進めており、山の環境(土壌)が健全になって保水力が高まることで、雨量が多い夏季に川の洪水流出が減って地下水が増え、反対に雨の少ない冬季の河川流量が増えてます。その増えた分を田んぼに引き込んでさらに地下水を涵養する。山、川、田んぼが三位一体となった地下水保全の象徴的な取組です」と胸を張る。

金山川中流域の熊本県益城町にこだわる理由

 飲料水のすべてを地下水でまかなっている熊本市にとって地下水保全は極めて重要な取り組みである。特に白川中流域の土地に水を張ると地下水に好影響が出ると言われており、2004年には熊本市が夏季の湛水を実施した。
 湛水はそもそも営農のための農法の一つであり、雑草の抑草や水鳥の雑草採食による除草効果、それらによる農薬使用の抑制、鳥の糞による肥料効果、さらに水を張った水田に水生生物が繁殖して鳥が捕食するなど生態系多様化といった効果も期待できる。
 冬水田んぼを実施するきっかけとなったのは、三枝氏が担当する「天然水の森 阿蘇」と熊本市内との移動の道中に広がる、冬の休耕期の殺風景な田園地帯を眺めたことだった。そのとき三枝氏は「ここで冬水田んぼを実施すれば、この田んぼにたくさんの水鳥がやってくるのではないか」と、冬水田んぼ実施への意欲を掻き立てたという。
 しかも三枝氏が眺めていた熊本県益城町は、2010年に協定を結んだ国有林に流れる金山川の下流に位置しており、サントリー九州熊本工場で利用する地下水の経路にあたる。
 三枝氏は「熊本地域における湛水は白川中流域が活発で、そちらでの実施も検討しました。しかし当社の地下水保全の取り組みは、当社の工場が使用する地下水の保全が目的です。ですからサントリー九州熊本工場で使う地下水の経路上に位置する、金山川中流域の熊本県益城町で実施したかったのです」と語る。

5ヘクタールの冬水田んぼで100万トンの地下水を涵養

 現地での調査や研究者の助言などから、金山川の扇状地上部に位置する益城町津森地区の水田の地質は透水性が高いことが判明した。そして冬水田んぼの実施に向けて、田んぼの地権者との交渉が始められた。三枝氏は頻繁に現地に通って地権者や地元の人たちとの対話を重ねることで、地域の信頼を得た。その結果、冬水田んぼが実施できただけではなく、冬水田んぼ以外のサントリーの活動にも地域の人たちが協力してくれるようになったのだ。
 4回目を終えたサントリーの冬水田んぼの成果について、「5ヘクタールの冬水田んぼで数十万トンから100万トンの地下水が涵養されているという調査結果を得ている」(三枝氏)が、さらに詳細な地下水涵養の効果について解明するために、2014年3月末から4月初旬にかけて新たな調査が実施された。冬水田んぼを実施している田んぼでボーリング調査を行い、地層の構成や地質、透水性を調べ、周辺の河川流量の変化を組み合わせて、より詳細な涵養量を把握することが目的だ。なおこの調査結果についても後日リポートする。

ホタルを呼び戻す米の有機栽培が始まった

 現在も頻繁に現地に通い続けている三枝氏は冬水田んぼの地下水涵養以外の効果にも注目している。三枝氏は「冬期に田んぼに水を張ることで生物の環境がどのように変わったのかについても調査しています。将来的にはたくさんの水鳥が訪れる田んぼにしたいですね。それには農薬を使わない米の有機栽培が効果的です」と語る。
 従来の田んぼには農薬が使われいる。冬水田んぼによる地下水涵養によって、農薬の成分が地下水に影響を及ぼす可能性は限りなくゼロに近いが、かつては田んぼにたくさんいた虫や生き物が農薬によって減少している。冬水田んぼの地域では、かつては夏になると田んぼや谷が明るくなるほどたくさんのホタルが生息していたという。そのホタルの灯も農薬によって暗くなってしまった。
 米の有機農法が実現できて地域に広がれば、姿を消したホタルなどの虫や生き物が再び繁殖し、地域の魅力が高まり活性化につながると三枝氏は期待している。また地域内の人々の交流が活発になることで、サントリーの地下水保全への取組の認知や理解が広がるという効果も期待できる。
 長年にわたって冬水田んぼを通じて地域と結びつきを強めてきた三枝氏の言葉は、きちんと地域の人たちに伝わっていたのである。2014年6月14日 土曜日の朝、金山川の扇状地最上部に位置する益城町津森地区の2つの田んぼで田植えが行われた。冬水田んぼでの米の有機栽培の第一歩である。
 三枝氏は「まずは2区画の田んぼでモデルケースとして実施して、有機栽培の知見を得たいと考えています。将来は益城町津森地区で有機栽培が広がって、夏の夜の田んぼが明るくなるほどたくさんのホタルが生息する環境が戻ってくることを楽しみにしています」と笑顔で語った。

(談:三枝 直樹 氏/まとめ:レビューマガジン社・下地孝雄)
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