文 教

最新の情報通信技術(ICT)をはじめとした革新的なテクノロジーを駆使して実現される快適で便利な持続可能な社会、スマートシティ、スマートコミュニティの実現に向けて、関連する分野においてそれぞれ進められている研究・開発、実証実験など、実用化に向けたさまざまな取り組みを総合的に発信していきます。
2014/02/22

普通学校でもすごいポテンシャルを持つ道具として使える

総評・特別講演
東京大学先端科学技術研究センター
中邑賢龍 教授

ICTを活用して障害児の学習・生活支援を行うプロジェクト
「DO-IT School」の成果報告会リポート
普通学校でもすごいポテンシャルを持つ道具として使える

 DO-IT Schoolのディスレクシアプログラムについて、DO-IT Japan会長の東京大学先端科学技術研究センター 中邑賢龍教授は、「これまで特別支援学校で行ってきたタブレットPCの活用を、普通学校に持ち込むことで何が起こるのか。Windowsという学校に広く導入されているデバイスを活用することで、どこまでやっていけるのか。この2つが私の関心事」と前置きする。
 そして、ディスレクシアプログラムの成果報告を聞いて、「普通学校の中でもすごいポテンシャルを持つ道具として使って行けると確信した」と評価を語る。  本当は勉強ができるのに、能力を発揮することができず評価されていない児童生徒がたくさんいる。こうした児童生徒が(タブレットPCやアプリケーションソフトなどの)ICTツールを活用することで、本来の能力を発揮できるようになるだけではなく、「特別支援学級から普通学級に行ける可能性がある。この可能性を追い続ける必要がある」(中邑教授)と期待する。

児童生徒がICTツールを使えるようにする工夫が大切

 中邑教授は、ICTツールの使い方についてアドバイスもした。中邑教授は、「読みが苦手な子は書きも苦手。文章がうまく読めないのに音声入力ソフトを使ってもうまく認識・入力できないのは当然。しかし、普段何も考えずにしゃべっている言葉、例えば「こんにちは」なら、すらすらとしゃべれる。こうした言葉をしゃべらせて音声入力ソフトに認識させれば、上手く使えるようになる」と、指導者が児童生徒にICTツールを使えるように工夫することが大切だと指摘する。
 そして、DO-IT Schoolに参加した先生が持つ体験やノウハウを共有することで、より有効な活用方法、活用環境が築けると語りかけた。

学年に応じた漢字で表示される日本語入力ソフトを開発

 新たに作ったソフトウェアの紹介も行われた。これは児童向けの漢字変換エンジンで、日本マイクロソフトの協力で、同社の日本語入力ソフト「IME」を基に開発したものだ。
 通常、Windows上でWordなどのワープロソフトやメールソフトで日本語を入力する際、例えば「きのう」や「kinou」と入力して(IMEを介して)変換すると、「昨日」や「機能」などたくさんの候補が表示される。
 児童生徒が学習する漢字は、学年によって異なる。そこで、IMEの漢字変換で候補表示される単語を、学年に応じた漢字で表示される機能をIMEに加えたのだ。使い方も簡単で、次の画面の通り学年を設定するだけで機能が利用できる。
 例示した画面では、漢字学習レベルを小学3年に設定した場合のもの。「きょうし」と入力して変換すると、「教師」ではなく「教し」が表示される仕組みだ。すでにプログラムは完成しており、間もなく配布される予定だ。

モバイル端末などのテクノロジーを能力の一部に組み込む

 総評として中邑教授は、「ICTが学校に入ってきたことによって教育が変わっていく」と切り出した。その理由として、子供たちが新しい能力を手に入れていることを挙げる。
 以前は、子供たちに新しい能力を身につけさせるためにテクノロジーを活用しようとしてきた。しかし、モバイル端末がこれだけ普及した現在、モバイル端末を能力の一部に組み込むことで、今すぐできるではないかと説明する。
 中邑教授は、「モバイル端末を使えば100点を取れる子供が、どうして0点を取っているのか」と問いかける。そして、テクノロジーをどのように導入するかという議論をやめて、この新しい時代に、テクノロジーを子供たちが手に入れた時代に、どのような教育が必要なのか、有効なのかの議論が必要だと強調する。
 中邑教授は、「テクノロジーを使えば、すぐできる、すぐ変わる、ことを実践している子供たちがたくさんいる。では、どんな子供にテクノロジーを渡すのかという議論になる。すると、障害の認定が必要などの制限が出てくる。そうではなくて、必要な子供が誰でも使えるようにするべき」と訴える。
 さらに、特別支援学校や特別支援学級での取り組みが、普通学校や普通学級に活かせると話す。中邑教授は、「特別支援学校や学級の先生や児童生徒が持ったノウハウを、普通学校、学級に浸透していけば、児童生徒が自分に応じた学習できる社会が実現される」と展望を語った。

(リポート:レビューマガジン社・下地孝雄)
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