生活・医療・福祉

最新の情報通信技術(ICT)をはじめとした革新的なテクノロジーを駆使して実現される快適で便利な持続可能な社会、スマートシティ、スマートコミュニティの実現に向けて、関連する分野においてそれぞれ進められている研究・開発、実証実験など、実用化に向けたさまざまな取り組みを総合的に発信していきます。
2014/02/22

ビジネスモデル徹底討論(1) 街づくりのイノベーションを考える

■ パネリスト
豊田市 市長 太田稔彦氏

千葉市 総務局次長
情報統括副管理者(CIO補佐監) 三木浩平氏

多久市 市長
横尾俊彦氏

東京理科大学大学院
イノベーション研究科 教授 田中芳夫氏

街をスマートにしていくというときに、自治体、住民、企業が一丸となって意識改革し、実現に向けた具体的な取り組みを推進する“シティ・イノベーション”が求められている。こうした潮流において、地域行政はどのような取り組みを実施しているのか、今後どのような取り組みが必要なのかについて情報と意見の交換が行われた。

市民の暮らしがより快適になること “未来創造産業”こそ行政の役割

 議論に先立ち、スマートシティという広範囲の分野にわたる取り組みについて、各自治体ではどのような未来像を描いているのかについて意見交換が行われた。愛知県豊田市の太田稔彦市長は、「スマートシティに関する明確な定義はなく受け取り方もそれぞれなので、スマートシティという言葉を慎重に使っている。豊田市のスマートシティは、低炭素社会を目指すこと。官民一体でさまざまな技術革新への取り組みが必要。ただし、実現にあたり、市民の暮らしがより快適になることが不可欠」と説明する。
 佐賀県多久市ではスマートシティという言葉はあまり使っていないという。同市の横尾俊彦市長は、「受け取り手である市民が、混乱しないように(言葉の意味を)整理する必要がある。方法論はいろいろあるが、市民一人ひとりがその人らしくハッピーになれる街づくり、すなわち“未来創造産業”が行政の役割ということに変わりはない」と答える。
 地方行政そのものが産業であり、経営感覚を持って街づくりを進めなければならないと強調する。こうした経営感覚を持って地方行政に取り組むという姿勢について、豊田市の太田市長もうなずいた。

施設などのモノから見るのではなく 市民の住みやすさを目的とすること

 スマートシティへの取り組みについては、一般的にモノに主眼を置きがちだが、千葉市の三木CIO補佐監は「スマートシティに関して、市民および民間が持つエナルギーを推進力として取り組んでいる。特にツールとしてICTの活用が欠かせない。例えば、ボランティアなどの社会貢献は個人単位、企業単位で個別に行われている。これらを取りまとめていくためにICTを活用して、より高い効果・効率を実現する取り組みを行っている」と提起する。
 モノを中心ではなく市民の目線で「住みやすい街」の実現に向けた取り組みについて豊田市の太田市長は、トヨタ自動車の本拠地があることからITS(高度道路交通システム)への取り組みも盛んであるが、ここでは経済産業省が推進する「低炭素社会システム実証プロジェクト」に触れた。
 豊田市では、家庭内、商業・企業、移動の際の交通、そしてコミュニティ全体の4つのアプローチで、エネルギー利用の最適化に取り組んでいる。
 太田市長は、「家庭内を例に挙げると、ソーラーパネル、蓄電池、省エネ機器、それぞれの業者が個別に製品開発しているが、組み合わせて利用する場合に、それぞれの家庭にとってエネルギー利用の効率化と生活の快適性が実現されているのかを検証している」と説明する。
 商業・企業に関しても交通に関しても同様で、いち早く最新技術と最新製品を普及させるために導入を進めるが、エネルギー利用の効率化と快適・便利を両立することが重要だという。
 ただし、エネルギー利用の効率化と快適・便利の両立によって、市民が得られる具体的な利点がわかりづらいのも事実。
 この点に関して太田市長は、3つの“トク”を挙げる。太田市長は、「電力や燃料の消費量削減による料金のお“得”、自分や自分たちがしていることに“特”徴がありわかりやすく行動することに満足感が得られる、行動に“徳”があることの満足感」が推進力となるという。

現状の取り組みは市民目線が足りない 「ヒト・イノベーション」こそ原動力・推進力

 多久市の取り組みについて横尾市長は、「理想のまち」について説明した。つまり、市民、行政、企業というコミュニティ全体が一体となって、住み続けたい街づくりに取り組むということ。それを実現するための行動を、行政職員が積極的に実行できる組織であることが基礎となるということだ。その具体的な行動として「5K」を示す。
 しかしながら課題もある。具体的には、行政職員をフル稼働させること、予算を提案しても可決されなければ実行できないため議会に理解を得ること、市民が一丸となって取り組むための仕組みや運用、これらさまざまな取り組みを実施するための財政運営を挙げている。
 横尾市長は、市民協働の取り組みについて、道路の補修個所の把握について、市民がタブレット端末やスマートフォンで現場の写真を撮ってインターネットを通じて市に報告する仕組みを例示した。
 千葉市の三木CIO補佐監も、ICTを活用した市民協働の実例を披露。千葉市では「ちばレポ」と呼ばれる実証実験を行っている最中だ。
 ただし、ちばレポを実際のサービスとして実施するには、組織の担当管轄が問題となるとも指摘。例えば道路ならば国道、県道、市道では管轄が異なるため、それぞれ対応が異なり実現は容易ではないという。
 東京理科大学大学院 田中芳夫教授も、「施設などのモノから見るのではなく、市民の住みやすさを目的とすることが、スマートシティの本来の姿。国内の現状では、まだ市民目線が足りないと感じる」と指摘する。このように、「市民が住みやすい街」がスマートシティであると一致した。

 技術革新によるエネルギー利用の効率化、交通の効率化などによる生活の快適性・利便性の向上、事業活動の新興などがスマートシティの要素ではあるが、結局のところ実現するのも利益を享受するのもヒトである。地域すべてのヒトの当事者意識が、スマートな街を作り上げるのだろう。まさに、「ヒト・イノベーション」こそ原動力・推進力なのではないだろうか。

(リポート:レビューマガジン社・下地孝雄)
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