ICT(情報技術)

最新の情報通信技術(ICT)をはじめとした革新的なテクノロジーを駆使して実現される快適で便利な持続可能な社会、スマートシティ、スマートコミュニティの実現に向けて、関連する分野においてそれぞれ進められている研究・開発、実証実験など、実用化に向けたさまざまな取り組みを総合的に発信していきます。
2014/09/03

農作業の時間や進捗状況をクラウドで見える化

鍋八農産
代表
八木 輝治 氏

トヨタ自動車は、同社が開発した農業IT管理ツール「豊作計画」の実証実験を推進している。トヨタ流の“カイゼン”が農業分野をどのように変えていくのか。先進的な取り組みが進められている農業現場に聞いた。

自動車事業のノウハウを農業分野に生かす

 トヨタ自動車は、自動車事業だけを営んでいるわけではない。意外かもしれないが、農業分野での取り組みも積極的に推進している。例えば、自動車事業で培った生産管理手法や工程改善のノウハウを米生産に応用し、稲作の生産性の向上に貢献するための事業を進めている。
 愛知県弥富市に所在する鍋八農産は、トヨタ自動車とともに農業のカイゼンを推進している農業生産法人の1つだ。農業生産法人は、複数の農家から作業委託や土地貸付を受けて農家の代わりに農作業を行う事業者だが、鍋八農産では従業員に対する日々の作業指示などに多くの手間がかかっていたという。
 鍋八農産 代表 八木輝治氏は、「従来は毎朝、農地を記した白地図に作業指示を記載し、その白地図をコピーして従業員に配布していました。完全に属人的な管理であり、農地ごとの農作業の進捗状況などを正確に把握することが難しかったです」と説明する。
 また、鍋八農産では、作業終了後に各従業員が作業日報を手書きし、その内容を代表夫人がエクセルにまとめていたが、エクセルで打ち直すこと自体が非効率であり、中には読めない文字もあったという。

スマートフォンで作業内容を確認

 農業分野の取り組みを重視しているトヨタ自動車は鍋八農産などと協力し、農業IT管理ツール「豊作計画」を開発した。豊作計画は、PCやスマートフォンなどで利用できるクラウドサービスだ。
 農地を表示した管理画面上で、作業にあたる従業員などを設定することで作業計画が完成する。その作業計画は各従業員のスマートフォンに配信され、従業員はどの農地でどのような作業をすればよいかが一目で分かるのだ。
 従業員のスマートフォンには作業にかかる目安時間も表示され、作業をする際の参考にできる。管理画面では、各従業員がどこでどのような作業を行っているかが確認でき、作業の遅れなども分かるという。
 遅れている際は、補助をする従業員のアイコンをその農地にドラッグ&ドロップすることでシステムに反映され、補助要員のスマートフォンに作業計画が配信される。
 八木氏は、「豊作計画を利用することで白地図をシステム化できたため、用紙代も削減できました。また、従業員がスマートフォンで撮影した作物の写真をクラウド上にアップロードすることが可能になり、作物の病気の状態など状況確認が迅速に行えるようになりました」と喜ぶ。
 各従業員は、スマートフォンを使って現場で作業内容や作業終了時間などを入力する。入力したデータは自動的にクラウド上の日報に反映されるため、作業後に日報を手書きしたり、エクセルで打ち直したりする手間が一切不要になった。
 また、従業員ごとの作業時間や生産効率を比較することも可能になったという。比較したデータを、生産性を高めるための議論に活用するなど、従業員の能力の底上げに生かせるのだ。

ICTは競争力を高める手段

 鍋八農産は豊作計画を利用したことで、利用していない場合と比較して資材費が25%削減、紙代などの労務費が5%削減、さらには経営管理レベルの向上、作業者の改善意欲の向上を実現した。「システム化によって何もしていないという農地がなくなり、委託元からのさらなる信頼も獲得できました」(八木氏)
 豊作計画の導入後に苦労した点は、従来は農地でスマートフォンを使って入力を行うことがなかったため、導入当初は入力をする習慣を付けるのに少々苦労したという。しかし今は、各従業員が豊作計画を使いこなしながら入力する習慣も付いており、入力ミスもほとんどない。
 豊作計画の開発に携わったトヨタ自動車 新事業企画部 企画総括グループ 主任 喜多賢二氏は、「農業従事者にとって使いやすいシステムを開発するために、実際に鍋八農産で農作業を手伝いながら農業の経験を積みました。こうした実体験に基づいて、例えば、スマートフォンの画面のボタン配置などを作り込んでいきました。現在、鍋八農産を含む9法人で豊作計画の実証実験が行われていますが、画面構成や作業工程の追加など、その法人の営農に沿った運用が可能です」と話す。
 八木氏は、「農業全般に言えることですが、競争力を高める手段として、ICTを活用した農作業の効率化を積極的に進めるべきです」と語る。
 現在、豊作計画は米、麦、大豆などに対応しているが、今後は対応する作物の種類を広げていくという。

(リポート:ユント・田中 亘)
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