三井不動産は千葉県柏市において、環境都市「柏の葉スマートシティ」の街づくり事業を進めている。本事業は、つくばエクスプレス沿線の区画整理事業として2000年に開始された事業がもとになる。秋葉原まで電車1本で行ける住みやすい街として、住宅やショッピングセンターなどが建設されたが、2006年からは東京大学などと連携し、環境に対する取り組みが強化された。
環境に優しい街づくりを進める理由について、三井不動産の橋本隆仁氏は、「単に建物を建設するだけでは、他の街と何も変わりません。そこで、街全体の魅力を高めるための付加価値を生み出すために、住民や企業などを問わずに取り組みが求められている環境対策を徹底した街づくりを目指しました」と説明する。
例えば、2009年にはマンションの分電盤にメーターを設置し、消費電力量を確認できるようにした。そうした街全体の環境対策を進めている中で、2011年に東日本大震災が発生した。震災以降は、電力不足の問題がより深刻化し、国民全体の環境に対する意識が一層向上したが、三井不動産は環境に配慮された街づくりを先行して進めていたことになる。
しかしながら、震災を機に課題も見つかったという。橋本氏は、「震災後に地域住民の方から『マンションが停電してエレベーターが止まり、寒い中、1階の共用スペースで一晩を過ごした』といった声を聞きました。そのため、日常的な省エネに加えて、万が一の震災時であっても、最低限のインフラを支える電力を確保できる仕組みが求められました」と話す。
柏の葉スマートシティでは、街全体のエネルギーを運用・監視・制御する「柏の葉AEMS」と住戸内のエネルギーを管理する「柏の葉HEMS」が開発され、2014年5月から段階的に運用が開始されている。
柏の葉AEMSは、柏の葉スマートシティに分散するオフィスや商業施設、ホテル、住宅などの各施設と、太陽光発電や蓄電池などの電源設備をネットワークでつなぎ、エネルギーを一元管理する中核システム。
各施設の電力使用状況、温度などの気象情報を把握して分析し、街全体で効率的な発電や蓄電を実施することでCO2の排出量を抑える。
「柏の葉スマートシティは、柏の葉AEMSによる電力制御によって、特定の施設で電力が不足したり余ったりした際に施設間で電力を融通することも可能です。これによって、平常時の電力消費量のピークカットを実現できるだけでなく、災害時に特定の施設で電力が不足した際に他の施設の電力を活用することもできます」(橋本氏)
柏の葉HEMSは、柏の葉AEMSと連携する電力制御システム。マンションの各戸や商業施設の各テナントには専用のタブレットが配布されており、柏の葉HEMSによって見える化された電力使用状況が端末に表示される。さらに、生活スタイルに適した省エネのアドバイスも端末に表示できるという。
橋本氏は、「例えば、その日の天候や湿度などから、システム側で空調が不要と判断した際、『窓を開けましょう』といったアドバイスを出します。商業施設などでの省エネの取り組みは、廊下の照度や空調の温度を下げるくらいしかできないかもしれませんが、アドバイスによって自主的な活動のための気付きを与えることができます」と話す。
柏の葉スマートシティでは、AEMSからのアドバイスに応じた利用者に、地域で使用できるポイントの提供が開始されている。利用者が電気代を削減できるだけでなく、楽しみながらポイントを貯めるなど、省エネに積極的に取り組むための工夫を凝らしているのだ。
柏の葉スマートシティでは、2020年のCO2排出量について、従来の街づくりによるCO2排出量※と比較して、42%の削減を目指しているが、そのうちの約5%をAEMSとHEMSによる節電が占める見込みだ。
また、乗り捨てが可能な共有の電気自動車を設置する予定もある。橋本氏は、「AEMSと電気自動車を連携させ、電気自動車に貯まった電力を街の施設で活用することを検討しています。数年以内には実現する予定です」と話す。住民の交通の便に配慮するだけでなく、電気自動車によって創電や蓄電も実現するのだ。
三井不動産は、柏の葉スマートシティの街づくりで得たノウハウをもとに、アジアを中心とした海外にスマートシティを展開させることも検討しているという。