エネルギー・環境

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2014/03/10

植物のような環境モデル GREEN FLOATプラン

清水建設株式会社 設計・プロポーザル統括
環境・技術ソリューション本部 本部主査
竹内真幸氏

清水建設は、赤道直下の海上に環境配慮型の都市を浮かべる「GREEN FLOAT」に注力している。食料の自給自足を維持しながら、廃棄物の再資源化によって自然にも溶け込み、CO2をゼロにするだけでなく周辺のCO2も吸収し続ける植物質な都市を目指す。

海上に浮かぶ新環境都市

 国連によると、2011年10月時点での人口は約70億人であり、現在は71億人を超えている見通しだ。さらに人口は各国とも、急激に都市部に集中している。その傾向が今後も続く場合、エネルギーや食料、水、交通など、都市部の主要なインフラの破たんを招き、自然の許容力の限界を超える可能性がある。既存都市の再開発は粛々と進める必要があるが、新規に都市を建設する場合には海上に浮かべるという選択肢に挑戦を始めてもいいのではないか。
 そこで、地球の表面積の約70%を占める海の活用に注目が集まっている。海のスペースを居住やビジネスの場として利用できれば、既存の都市部などでは収まりきらない人口を収容できるようになる。そうした中で、清水建設は、海上に都市を浮かべる新環境都市モデル「GREEN FLOAT」の取り組みを推進している。
 GREEN FLOATは、海面と接する基盤部分、常夏のビーチや農場が広がる水辺エリア、食料自給率100%を実現するための植物工場などが配置されたタワー部、地上700〜1,000mの空中都市ゾーンなど、複数の階層に分かれている。

台風の影響が少ない赤道に着目

 都市づくりを行う上で、自然災害への対策は不可欠となる。そこで、GREEN FLOATは赤道での建設を予定している。清水建設の竹内真幸氏は、「赤道は、台風やハリケーンなどの異常気象がほとんどなく、海上は津波、地震の影響がありません。つまり、赤道直下の海上は自然災害が極めて起きにくいため、GREEN FLOATの想定立地として計画しました。また、赤道は太陽光を最も浴びる場所でもあり、都市に隣接した場所でのマングローブやサンゴのような多様な生態系の育成が行いやすいこともポイントです」と説明する。
 GREEN FLOATは、自然に溶け込んで共生し、生態系の一部として成長していく“植物のような都市”をコンセプトの1つとして掲げている。
 例えば、ごみを処分するにはコストや手間がかかり、環境にも負荷を与えるが、GREEN FLOATでは、生ごみや汚水などをリサイクルし、植物工場の栄養素としてすべて再利用する。さらに、水辺エリアで飼育する家畜や、海洋牧場で育てる魚介類などの栄養補給にも活用する。
 太陽の恵みによって海の幸と山の幸を育み、発生したごみをリサイクルすることで、資源を最大限に活用する。海上に漂流している大量のごみを回収し、ごみ処理プラントで資源やエネルギーに変換することで、地球の環境浄化にも貢献する。
 また、夏や冬を快適に過ごすには空調が欠かせないが、空調を利用するには当然電力が必要となる。しかし、環境に配慮するために空調の利用を控えるような我慢の節電は、健康に悪影響を及ぼす。一方、GREEN FLOATの場合は、赤道直下の地上1,000mに居住スペースがあり、自然のままで気温が1年中26度前後に保たれるため、空調の利用を抑えた快適な生活が実現するのだ。また、赤道は雨季には大量の雨が降る傾向にあるため、雨水を貯めることで水も確保できる。

昼夜を問わずに太陽光エネルギーを利用できる

 空中の居住エリアには約3〜4万人が居住し、緑化面積は東京ドーム約12個分の約56万m²となる。水辺部分の居住エリアには約1万人が居住する計画だ。タワー部分には、植物工場やオフィスゾーンが配置される。オフィスゾーンで行われるビジネスは、農業やバイオサイエンスの研究開発、気象観測などが想定されている。
 電力は、複数の供給先を確保する予定だ。例えば、太陽光を静止軌道上で収集し、マイクロ波もしくはレーザー波で地上に送るJAXAの宇宙太陽光発電を利用する計画がある。発電施設は宇宙にあるため、昼夜を問わずに安定した太陽エネルギーを利用できる。地球側の受電基地として、海上浮遊型の方が立地の制約が少ないというメリットもある。
 さらに、都市の小規模化、産業構造の転換、上空3,000mの冷たい空気や深層水を利用した空調、深海と表層の海水の温度の違いを利用して発電機を動かす海洋温度差発電システムなども活用することで、需要を上回る、昼夜や天候の影響を受けない安定的な電力を確保できる見通しだ。

海面上昇の問題が解決!?

 GREEN FLOATは浮体構造であるため、温暖化によって海面が上昇しても、安心して生活できる魅力もある。そのため、GREEN FLOATは南太平洋の沈みゆく国々のための、地球温暖化による海面上昇への対応策にもなりえる。
 太平洋の島国のキリバス共和国は、温暖化による海面上昇によって、国土が完全に水没する危険にさらされている。竹内氏は、キリバス共和国のアノテ・トン大統領に対してGREEN FLOATを提案し、アノテ・トン大統領も、水没への対応策として、①他国への移住、②護岸の補強、③GREEN FLOATのような人口都市による対処、の可能性への期待を明言している。GREEN FLOATは、国土が失われつつある国を救う手段の一つとして期待されているのだ。
 GREEN FLOATの浮体構造の技術は約30年前から確立されている。清水建設は技術イノベーションとして、GREEN FLOATを2025年に着工し、2030年に完成させることを目標にしている。
 当面の課題はコストになるが、各国が地球温暖化による海面上昇の問題に真剣に取り組み、各国の協力のもとに計画が進めば、コストの課題を解決できる可能性がある。

(リポート:レビューマガジン社・笠間洋介)
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